前回のブログに続き今回も油圧ディスクブレーキのお話し。何故、ブレーキパッドが擦り減ってもブレーキレバーのストローク量が大きく(あまく・ゆるく)ならないのかを少し詳しく解説してみたいと思います。
まず、ブレーキレバーを握るとブレーキがかかる理由。レバーを握るとブレーキレバー(マスターシリンダー)側からブレーキキャリパー側へオイルが押し出されてキャリパー内のオイルの量が増えて圧力がかかってピストンがキャリパーの外側に押し出されます。ピストンによって押し出されたブレーキパッドが車輪に固定されているブレーキローターを左右から挟み込んで車輪の回転を止めます。次の模式図・キャリパーの断面です⇓。
ココでのポイントは押し出されたピストンが、圧力がかかっていない元の状態(ブレーキレバーを握っていない状態)になった時に、元の位置に戻る理由です。押し出された時に変形したピストンを支えているピストンリング(←呼称はいろいろあります。図の赤色の部分)が元に戻る力が働いて、今度はキャリパー側のピストンがブレーキレバーを押し返す現象が起こります。これが握ったレバーを放すとブレーキが解放される理由です。
模式図は断面図なので、イメージがしにくい方もいらっしゃると思います。実際の形状は下の画像のようにピストンが挿入されているOリング状の弾性のあるパッキン部分です⇓。
以上、といった基本的な構造は理解していただけましたでしょうか。
では、ブレーキパッドが擦り減ってきた場合、どういった動きをしているのでしょう。次の図の黄色の部分がブレーキパッドです。最初の図よりもパッドが擦り減ってかなり薄くなっています。赤い部分(ピストンリング)の変形量には限界があるので、限界量を超えたところでもブレーキローターにパッドが届かないと、ピストン自体がスライドしてキャリパーの外側へさらに押し出されます。そしてローターにパッドが当たる位置まで来るとスライドが止まります。
この状態から、ブレーキレバーを開放すると、先ほどの理屈でピストンリングの変形量分だけ、またピストンがキャリパー内へ戻ります。ピストン本体がスライドした移動量は戻りません。これが常にブレーキパッドのクリアランス(間隔)が一定に保たれる理由です。パッドが擦り減った分だけ自動的にパッドが内側に出てくる仕組みになっています。
◆具体的にブレーキパッドがすり減ってきた時のトラブルは…
パッド残量が限界値を下回ると、
ピストンがスライドして押し出されてもブレーキローターまでパッド届かなくなります⇒当然ですがブレーキが全く効かない。
パッドの台座(バックプレート)は固い金属ですので、バックプレートがブレーキローターにあたってしまうと、⇒ローターにダメージを与えてしまう。
点検を怠るとある日突然、こんなトラブルが起きることがあるので注意しましょう。日常の点検については前回のブログを参照。
それともう一つよくあること。パッドがすり減っていなくても起こる油圧ディスクブレーキの代表的なトラブル。車輪を外している時にブレーキレバーを握って左右のパッドがくっついてしまうことがあります。
車輪を外している⇒ブレーキローターが左右のパッド間に設置されていない状態
キャリパーの外側に押し出されるピストンを受け止める壁が無いので、どんどんピストンが出てきてしまいます。そして、ピストンはピストンリングの変形量分しか戻りませんので、左右のブレーキパッドがくっついた状態になります。
輪行する際など要注意です。車輪を外した状態ではブレーキレバーを握ってはいけません。また、車輪を外している時は「パッドスペーサー」を挟むなどしてトラブルを避けましょう。
ディスクロードや油圧ブレーキ仕様のクロスバイクが最近増えてきていますね。これまでのリムブレーキとは勝手が違うところがいろいろとありますが、制動装置としての性能としては油圧ディスクは理想的な部品だと思います。製品として、それぞれの車種カテゴリーでMTB用のディスクブレーキとは違うアレンジもされています。また、こういう構造なのでワイヤー式に比べて調整の頻度は少なくて済みますし、油圧なのでブレーキのタッチも軽くて安定した制動力が得られます。メンテナンスはショップ任せと割り切ってもいいですし、トータル的に見て、スポーツサイクル全般「油圧ディスクは有り」の時代になってきている感じがしますね。