初めて購入したロードバイクが油圧ディスクだった方へのアドバイス

※写真はイメージです。
特定のモデルの話題ではありません。

初めての「スポーツサイクル」。ロードバイクでもクロスバイクでも一般のシティサイクルと異なる特殊な取り扱い方法があって、苦労されている方も多いかと思います。ただでさえ初心者には難しいのに、とくに最近のトレンド「ディスクロード」に関しては正直「ちょっとハードルを上げすぎでは」と個人的には思うところがあります。

ロードバイクのブレーキのシステムが従来の「リムブレーキ」から「ディスクブレーキ」に主流が急速に移行しています。

■「リムブレーキ」モデルと「ディスクブレーキ」モデルの両方をラインしているメーカー

■「ディスクブレーキ」モデルしかラインナップがないメーカー

後者の完成車メーカーの方が圧倒的に多くなっています。

どのくらいラインナップが増えてきているのかというと、実際には「街乗りモデル~エントリーモデル」ではリムブレーキがまだまだ一般的です…、と言いたいところですが、スポーツユースで購入する「エントリーモデル(シマノ仕様でいえば105装着モデルあたり)」クラスになると、実際には「ディスクブレーキ」モデルが非常に多くなってきています。そうすると必然的に「初めて買ったロードバイクが油圧のディスクロード」となってしまいます。

これまでオーソドックスなリムブレーキ仕様のロードバイクに乗っていた方が2台目以降で「ディスクロード」に乗り換える場合は基本ができているので「応用編」として「ディスクロード」でもそれほど難しくないとは思います。急がば回れで少しずづ基本からマスターしていけば、それなりに理解していける構造です。

取り扱い方法が難しいのは確かに否めませんが「初心者にとってメリット」が多いのも「ディスクロード」です。「ディスクロードは難しいからやめた方がいいよ」という考えでは私は決してありません。基本的な整備技術をちゃんと習得して正しく扱えれれば、恩恵(とくに安全性の面の貢献)の方が大きいと思っています。

<ディスクロードの初心者にとってのメリット>

  • 油圧モデルであれば、少ない力でブレーキ操作ができる
  • 油圧モデルであれば、メンテナンスの頻度が少なくて済む
  • 制動力が安定しているので、初心者でもコントロールしやすい

もちろん、これらのメリットは中上級者でもありがたいことですし、手の握力の強さでどうしても不利になってしまう女性ライダーにも大きなメリットと言えます。

※ディスクブレーキではケーブルでブレーキを引いて操作する「機械式」と呼ばれるタイプとブレーキ内部に密閉されたオイル(フールド)で操作する「油圧式」とよばれるタイプがあります。前述の「105」なども含め中級グレード以上では「油圧式」が主流です。

特に「油圧式」は構造的から学ぼうとすると難しくなりますが、シンプルに覚えるべきことは「下記の3点」です。※ディスクブレーキの詳しい構造解説は過去ブログを参照してください。

①初心者にはちょっと難しいですが「ホイールの脱着」の習得は必須

特殊な工具を使わずとも脱着が可能なのは従来の「クイックレバー式」と同じです。モデルによって個別の「コツ」的な物を掴む必要がある箇所ですので、実際にご自身のバイクで練習することが一番よいでしょう。スポーツサイクルを楽しむ上では必要な技術ですので初心者にはちょっと難しい作業ですがここは頑張ってマスターしましょう。※ホイールの脱着作業に不安があって周囲に教われる人がいない方、当店ではプライベートレッスン (有料) を承っていますのでご相談下さい。

②油圧モデルだとブレーキパッドが擦り減ってもレバーの引き量が変わらないため、目視でパッド残量の点検を

左/すり減ったパッド、右/新品のパッド

シマノのマニュアルではディスクブレーキパッド残量が0.5㎜以下で交換が必須とされています。リムブレーキだとブレーキパッドが擦り減ると、レバーの引き量が大きくなるので、操作感で減ってきていることに気付きやすいのですが、油圧式の場合は自動でレバーの引き量を調整してくれる機構になっているため意外とブレーキパットの摩耗に気づかない方多くがいます。目視でも判断できるので、定期的に確認をしましょう。

③輪行などでホイールを外して運搬する時は「パッドスペーサー」を活用しましょう

これは運搬時に多いトラブルです。 油圧式の場合、車輪を外した状態(ディスクローターが無い状態)でブレーキレバーを引いてしまうと、左右のパッドがくっ付いてしまって、再度車輪を装着できなくなる可能性があります。車輪を外しての運搬時には必ず、パッドの間に専用スペーサーを挟んでおきましょう。

それと当然ですが、専門ショップでの定期点検は必ず受けましょう。手間と費用を考えるとディスクブレーキは基本的なメンテナンス以外の専門的な技術が必要な箇所はショップに任せてしまった方が楽だと思います。逆に油圧ディスクの場合、日常のメンテナンス頻度が少なくてすむメリット(前述のブレーキパッドクリアランスの自動調整など)もあります。特徴を正しく理解して取り扱うことができれば、非常に優位性の高い優れたブレーキシステムです。

地味だけど重要なワイヤー類の話 その②

今回はワイヤーの種類について

当店で修理対応に使用しているワイヤー類(標準的な作業の場合)

※いずれも税別/作業工賃は別途

シティサイクル向けブレーキワイヤー

吉川ブレーキ(YSB)/スチール製セット

  • フロント一式…400円
  • リア一式…450円
いわゆるママチャリ向けお手頃ブレーキワイヤー。シティサイクルの場合、工賃込みで1ヶ所あたり1,000円程度で交換可能です。

クロスバイク・MTB向けワイヤー類

シマノ/ステンレスワイヤー各種

  • ブレーキインナー…300円(1本)
  • ブレーキアウター1台分…600円
  • シフトインナー…350円(1本)
  • シフトアウター1台分…700円
シマノのワイヤー類(ステンレス製)

ロードバイク向けワイヤー類

  • シマノのスタンダードなステンレスワイヤー…上記、クロス・MTB向けと同価格
  • シマノ/オプティスリック仕様シフト一式…2,066円
  • シマノ/ポリマーコーティングブレーキ一式…3,623円
  • シマノ/ポリマーコーティングシフト一式…3,909円
  • カンパ/ブレーキインナー…947円(1本)
  • カンパ/シフトインナー…962円(1本)

などなど、特にロードバイク系コンポーネントの場合、こっけうバリエーションがあります。互換性の中で制約はありますが、最近のシマノ系上位モデルだと選択肢が複数あります。

ロードバイクの場合、ワイヤー類は「こだわり」のパーツであったりもします

基本、スポーツサイクル系の作業の場合は、すべてシマノのステンレス製を使用していますので、スタンダードな料金での交換作業でも性能・耐久性は十分かと思います。

もちろん、作業は自分でやるというDIY派の方向けに「ワイヤー単品」での販売もしています。どれを選べばいいのかわからない方でもお気軽にご相談ください。

当店では一般のシティサイクル用からハイエンドロードバイク用まで、いずれも基本的な消耗品ですので常時在庫をしております。交換作業工賃を含めた総額は車種によって違いますので、詳しくは個別にお問い合わせください。

地味だけと重要なワイヤー類の話 その①

ほとんどの自転車では「ブレーキ」や「シフト」の操作は”ワイヤー(ケーブルとも呼びます)”を手元のレバーで動かして行います。

一度セッティングしてしまえば永久的に使える物であればいいのですが、そうはいかないのがワイヤー類の構造の特徴です。使用しているうちに少しずつセッティングがズレてくるので、ワイヤーの「張り具合(テンション)」を定期的に再調整する必要があります。また消耗する部品ですので定期的に交換が必要です。錆びてしまったり、変形してしまったり、ほつれたり切れたりすることがある部品です。

「シフター」と「ディレラー」を繋ぐワイヤー(ケーブル)の模式図

ワイヤー類の構成部品は、外側の「アウターケーブル」と内側の「インナーケーブル」とがあります。そして、ケーブルの末端にはそれぞれを保護する専用のキャップ取り付けられています(※キャップは仕様によっては必要ない場合もあり)。

明らかに見た目でわかる箇所が錆びてしまって動かない状態や、切れてしまっている場合などは、交換の時期の判断がし易いとは思いますが、意外と見えない部分が傷んでいたりして、シフトやブレーキの操作がスムーズでなくなったりします。

見えない部分のワイヤー類が消耗するとどうなるか、具体例を見てみましょう。⇓

錆びたインナーケーブル。アウターケーブルの内側に隠れている部分が茶色のサビが付着。
一見きれいに見えますが、シフトアウターケーブルのキャップを外してみると…
新品と比べてみると先端がかなり傷んでいます。
キャップが割れている場合も操作性能にはマイナス。さらに消耗すると、最終的にはアウターケーブルが破損してしまいます。
コチラはロードバイクのブレーキアウターケーブルの具体例。
普段見えない箇所ですが、使用していくうちに劣化していきます。

ということで、当然

ワイヤー類は消耗品です

…を前提に自転車のメンテナンスをする必要があります。

基本ワイヤー類は金属製なので、長期保管(良好な状態で)による経年劣化はあまりありません。どちらかというと「乗れば乗るほど」消耗していく部類のパーツです。使用頻度の多い方でしたら1年に1回程度の交換がおすすめです。ワイヤーが原因で動かなくなっている場合はもちろんですが、新品のワイヤーに交換することによって、「ブレーキ」や「シフト」の操作感が断然良くなります。

※交換作業工賃は1,500円/1ヶ所が標準費用です。ケーブルの値段はグレードがいろいろありますが、1,000円前後/1ヶ所あたりがスタンダードなケーブルの部品代金です。ただし、ワイヤー類は車種、モデルなどで大きく値段が違いますので、詳しい交換作業費用は個別にお問い合わせください。

洗車サービスもあります。

※詳細はお気軽にお問い合わせください

代表的な「洗車」関連メニューを抜粋してみました。 セットメンテナンス作業やオーバーホール作業などを行う際に同時に施工している ケースが多いのですが、ご注文はクリーニング作業単品でも承っていますので、今回はそのご紹介です。

「①ギア周り分解洗浄」はけっこう人気のメニューです。ギア周りは分解しないとなかなかきれいにならない場所ですので、一斉に分解して洗浄してしまった方が確実にきれいになります。クランク・チェーンリング・Rメカのプーリー・スプロケット・チェーンを取り外して洗浄します。

最近では設備の整った自転車の「洗車専門業者」さんも各地にオープンしてますね。それだけ需要があるということなのでしょう。専門的にされているショップさんのホームページなどを見ると、さすが本業、 すごくハイスペックな洗車関連設備が整ってますよね。当店はそれに比べるとかなりアナログな感じの作業ですが、人力(私の手作業)でせっせとお客様の自転車を磨かせていただいております。もともと、各種メンテナンス&再調整がメインの目的の作業工程の中で行っている「クリーニングサービス」ですので、「分解ついでにキレイにしてしまおう」というスタンスでの作業のため、その点はご了承ください。クリーニングすることによって走行性能の回復に役立つことも多々あります。 そういった意味でも洗車はメンテナンスの大事な一つの要素です。もちろん、見た目にもピカピカになるように、アナログ技術なりに心を込めて掃除させていただきます。

「セットメンテナンスA.プレミアム25,000円」にはメニュー表の「①+②+③のセットクリーニングメニュー」が含まれています。仕上がりとしてはおおむねご好評をいただいております。「基本消耗品交換+全体クリーニング」で愛車をリフレッシュしたい方に一押しのメンテナンスメニューです。

また、各箇所汚れの具合(&消耗具合)によっては、パーツ交換の方が効果的なケースもあります。具体的には実際にバイクを拝見させていただいて、総合的に判断をして各プランをご提案しております。代替パーツで対応できるものなら、研磨などのレストア作業よりも、新しい部品と交換してしまった方が、現実的には費用が安く上がります。この辺りはユーザー様によっていろいろと事情が違ってきますので、用途やご予算だけでなく、「思い入れ」なども伺って判断の材料にさせていただいております。

ケミカル類、掃除用品も販売してます。

日頃のご自身でのクリーニング作業はもちろん重要。店頭には日常的に行う洗車グッツも取り揃えていますので、使い方などよくわからないことがあれば、ご遠慮なくご質問ください。「日々の自分での自転車の掃除」+「定期的なショップでの本格的なクリーニング作業」をうまく組み合わせて愛車をキレイに保ちましょう。

納期は、オーバーホールやセットメンテナンスとの同時作業であれば、それぞれの作業納期に準じます。「セットクリーニングコース」は2営業日(要予約)程度で仕上がるかと思います。作業スケジュールのご相談は、いずれにしても事前見積に一度ご来店していただけると助かります。

ブレーキパッドの交換時期

ようやく梅雨も明けて本格的な夏になりました。今年は雨がしっかりと降る梅雨が続きましたね。雨の日に自転車に乗ると「ブレーキパッドの減りが早い」ことをご存じですか。車輪のリム側面にブレーキパッド当てることによって自転車は止まります。その時の摩擦で、リムとブレーキパッドはだんだんとすり減っていきます。

リム=金属

ブレーキパッド(ブレーキシュー)=ゴム

※ディスクブレーキは構造が違います。

ですので、一般的には柔らかい材質のブレーキシューの方が早く摩耗します。使用頻度、乗り方にもかなり左右されますが、ブレーキシューは消耗パーツの中でも交換のタイミングが早くやってくる部品の一つです。特に制動力が強い「Vブレーキ」などは思いのほか早く擦り減ります。

特に雨の日は要注意です。耐水ペーパーでヤスリがけをする時、乾いた状態で削るのと、水を付けて削るのでは、削れるスピードが違う経験があるかと思います。水が付いている状態(雨の中の走行)だと、条件によっては通常の何倍もブレーキシューが摩耗してしまうことがあります。雨の日に頻繁に自転車を使用される方は交換のタイミングにはご注意ください。早いケースだと3か月くらいしか持たないケースもあります。

それと交換のタイミングは擦り減って残りが「ゼロ」になってからではなく、残量に少なくなったら早めに対応しておきましょう。

★車種別の代表的な交換例です。価格は税抜き。

左/擦り減った「Vブレーキシュー」 右/新品

Vブレーキシュー交換の費用(1ヶ所)

■シマノM70T3 916円

■交換作業工賃  1,500円

合計 2,416円

主な採用車種:クロスバイク、MTBなど

左/擦り減った「一般車用シュー(アルミリム用)」 右/新品

一般車シュー交換の費用(1ヶ所)

■YSBアルミリム用 600円

■交換作業工賃  300円

合計 900円

主な採用車種:シティサイクル全般のフロントブレーキ

ロードのキャリーパー/カートリッジ式

ロードシマノ105現行モデル交換の費用(1ヶ所)

■シマノR55C4 795円

■交換作業工賃  1,500円

合計 2,295円

主な採用車種:シマノカートリッジ式のロードリムブレーキ全般

※ディスクブレーキのパッドも各種在庫してます。工賃は基本2,000円です。詳細在庫はお問い合わせください。

ロード完成車考察~ブレーキアーチ編~

ブレーキセットだけ「シマノ」じゃない…、なぜ?

エントリーモデルのロードレーサーについて。初めてロードレーサーを購入された多くの方は「10万円~20万円価格帯の完成車」って予算条件で探されたのではないでしょうか。この「10~20万円」の定番価格帯は購入時に「コスパ」の条件が一番重視されるカテゴリーだと思います。この価格帯のロードでコンポーネント(以下コンポ)がシマノだと、アルミモデルで10~12、3万だとSORA仕様、12、3万~15万だとティアグラ仕様、15万~は105仕様。最近はカーボンモデル+ティアグラ~105仕様辺りで20万前後なんてラインアップもあったりします。

初めてのロードでフレームの好みって正直難しいですね。それに比べてコンポの違いは割と初心者でも体感できる側面があるので、無難なフレームでコンポにこだわった選び方をアドバイスする考えが主流だと思います。

作り手(メーカー)側の事情もエントリーロード完成車ではコストの面(コスパ)が重視されています。初めてのお客様がより購入しやすい値段で提供することがライバルメーカーとの差別化になってたりします。完成車メーカーにとって「シマノ」コンポ採用は高品質であるとユーザーに訴求しやすく、 一般的に高評価ポイントになります 。一方、シマノに対抗すべくアジア系のパーツメーカーも完成車市場ではかなり頑張っています。これらのメーカーがシマノより安く完成車メーカーにパーツ供給をしています。ブレーキ周りは容易にコピーが可能?なのか、シマノクオリティに遜色がないアジアメーカー商品がけっこう完成車に採用されています。そして、コストのバランスをトータルでまとめて、エントリー向け価格帯の商品が出来上がっているのです。

シフターやディレーラーなど駆動系パーツは比較的シマノにこだわってアッセンブルしているモデルが大多数ですね。やはり駆動系は品質&コスパともにシマノが抜き出ている印象がありますね。しかし、シマノ105仕様だけどブレーキアーチだけアジアメーカー、意外にこのクラスでは多い完成車スペックです。逆にフルスペックでシマノ仕様のメーカーはこのアッセンブルをセールスポイントにしてますね。ロードディスク化の流れといっても、エントリークラスではまだまだリムブレーキ主流ですし、こういった組み合わせの完成車スペックに乗っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

現在の自分の完成車スペックからグレードアップをと検討中の方へ。ブレーキシューがすり減って交換するタイミングで、「ブレーキアーチ」をシマノ化することがおすすめです。ブレーキ周りは少しの金額投資で性能の違いが体感できるパーツですよ。もちろんシマノパーツであっても上のクラスにグレードアップするのもおすすめです。


私のフィーリングによる現行シマノブレーキアーチ評価


クラリス&SORA…アジアメーカーよりは調整しやすいけど制動力は、劇的には変わらない。
ティアグラ…高級感は無いけど一昔前の7700世代のデュラエースくらいの性能がある。
105…剛性感があきらかに違う。抜群の制動力。アーチを交換するだけでもブレーキの性能が断然違う。
アルテグラ&デュラエース…現行105~デュラは大枠では同じ形状タイプが採用されてます。アルテ→デュラとグレードが上がるとマテリアルの品質がアップ、剛性もさらに増して、仕上げに高級感もある。ただ、当然、価格もかなり上がります。

※あくまで私個人の感想ですので、科学的データ等の根拠に基づいた評価ではありません。


高頻度でしっかり乗る方であれば、いずれブレーキシュー交換のタイミングが来ます。その際、工賃込みでシュー交換4~5,000円程度かかるのであれば、プラスαでブレーキアーチのグレードアップを検討されるのもありだと思います。

≪交換作業一例≫

シマノ105 ブレーキアーチ BR-R7000ペア 9,074円

ブレーキアーチ交換作業工賃(前後) 1,500円×2

合計費用 12,074円(税抜)

油圧ディスクブレーキのキャリパーの構造

前回のブログに続き今回も油圧ディスクブレーキのお話し。何故、ブレーキパッドが擦り減ってもブレーキレバーのストローク量が大きく(あまく・ゆるく)ならないのかを少し詳しく解説してみたいと思います。

まず、ブレーキレバーを握るとブレーキがかかる理由。レバーを握るとブレーキレバー(マスターシリンダー)側からブレーキキャリパー側へオイルが押し出されてキャリパー内のオイルの量が増えて圧力がかかってピストンがキャリパーの外側に押し出されます。ピストンによって押し出されたブレーキパッドが車輪に固定されているブレーキローターを左右から挟み込んで車輪の回転を止めます。次の模式図・キャリパーの断面です⇓。

≪ブレーキキャリパーの断面図≫ピストンを囲んでいるグレーの枠がキャリパーのボディ。内側の白い部分をブレーキフールド(オイル)が満たしています。

ココでのポイントは押し出されたピストンが、圧力がかかっていない元の状態(ブレーキレバーを握っていない状態)になった時に、元の位置に戻る理由です。押し出された時に変形したピストンを支えているピストンリング(←呼称はいろいろあります。図の赤色の部分)が元に戻る力が働いて、今度はキャリパー側のピストンがブレーキレバーを押し返す現象が起こります。これが握ったレバーを放すとブレーキが解放される理由です。

ブレーキレバーを開放すると変形していたピストンリング(図の赤い箇所)がもとの形状に戻って、また、ピストンが元の位置に納まる。
つまり、この変形量がブレーキパッドとブレーキローターのクリアランス(間隔)を一定に保っているということ。

模式図は断面図なので、イメージがしにくい方もいらっしゃると思います。実際の形状は下の画像のようにピストンが挿入されているOリング状の弾性のあるパッキン部分です⇓。

ちなみに、この図はAvidのスモールパーツリスト。ピストンリングがスペアパーツとして供給されています。ピストンの動きが悪い時などキャリパーのオーバーホール時に交換したりします。供給されていないメーカー(シマノなど)やブレーキキャリパーの分解ができないモデルもあるので、ピストンの動作に不具合が生じた場合、キャリパーまるごとの交換になるケースもあります。また、現実的には、キャリパーの分解OH作業工賃を考慮するとその方が安い場合も…。
左右のブレーキパッド間に挟んである昆虫的なシルエットの「押さえバネ」。この部品はパッドをピストンに固定する役割なので、このバネがピストンを押し戻している訳ではありません。ただし補助的な役割はあるので、このバネもヘタってくるとパッドとローターと干渉しやすくなることはあります。

以上、といった基本的な構造は理解していただけましたでしょうか。

では、ブレーキパッドが擦り減ってきた場合、どういった動きをしているのでしょう。次の図の黄色の部分がブレーキパッドです。最初の図よりもパッドが擦り減ってかなり薄くなっています。赤い部分(ピストンリング)の変形量には限界があるので、限界量を超えたところでもブレーキローターにパッドが届かないと、ピストン自体がスライドしてキャリパーの外側へさらに押し出されます。そしてローターにパッドが当たる位置まで来るとスライドが止まります。

この状態から、ブレーキレバーを開放すると、先ほどの理屈でピストンリングの変形量分だけ、またピストンがキャリパー内へ戻ります。ピストン本体がスライドした移動量は戻りません。これが常にブレーキパッドのクリアランス(間隔)が一定に保たれる理由です。パッドが擦り減った分だけ自動的にパッドが内側に出てくる仕組みになっています。

ピストンが外側に押し出されていますので、キャリパー内のブレーキフールド(オイル)の量が増えています。その分マスターシリンダー(ブレーキレバー)側のフールドの量が減りますがダイヤフラム(風船みたいなもの)構造がレバー側の減った分のフールド量を補うので、手元のブレーキレバーの位置も変わりません。つまり、基本的にブレーキパッドが少なくなってもライダーはブレーキレバーの操作感に変化を感じません。
実際にかなりすり減ったブレーキパッドを外した時のピストンの状態。キャリパー内側左右から出ている白い部分。かなり押し出されていますね。元に戻す方法は前回のブログを参照。

具体的にブレーキパッドがすり減ってきた時のトラブルは…

パッド残量が限界値を下回ると、

ピストンがスライドして押し出されてもブレーキローターまでパッド届かなくなります⇒当然ですがブレーキが全く効かない

パッドの台座(バックプレート)は固い金属ですので、バックプレートがブレーキローターにあたってしまうと、⇒ローターにダメージを与えてしまう。

点検を怠るとある日突然、こんなトラブルが起きることがあるので注意しましょう。日常の点検については前回のブログを参照。

それともう一つよくあること。パッドがすり減っていなくても起こる油圧ディスクブレーキの代表的なトラブル。車輪を外している時にブレーキレバーを握って左右のパッドがくっついてしまうことがあります

車輪を外している⇒ブレーキローターが左右のパッド間に設置されていない状態

キャリパーの外側に押し出されるピストンを受け止める壁が無いので、どんどんピストンが出てきてしまいます。そして、ピストンはピストンリングの変形量分しか戻りませんので、左右のブレーキパッドがくっついた状態になります。

輪行中のこんなトラブルに注意

輪行する際など要注意です。車輪を外した状態ではブレーキレバーを握ってはいけません。また、車輪を外している時は「パッドスペーサー」を挟むなどしてトラブルを避けましょう。

パッドスペーサー。車輪を外している時に、ブレーキローターの代わりに左右のパッドの間に挟んでおきます。

ディスクロードや油圧ブレーキ仕様のクロスバイクが最近増えてきていますね。これまでのリムブレーキとは勝手が違うところがいろいろとありますが、制動装置としての性能としては油圧ディスクは理想的な部品だと思います。製品として、それぞれの車種カテゴリーでMTB用のディスクブレーキとは違うアレンジもされています。また、こういう構造なのでワイヤー式に比べて調整の頻度は少なくて済みますし、油圧なのでブレーキのタッチも軽くて安定した制動力が得られます。メンテナンスはショップ任せと割り切ってもいいですし、トータル的に見て、スポーツサイクル全般「油圧ディスクは有り」の時代になってきている感じがしますね。

ディスクブレーキパッドの交換(油圧編)

すり減って限界を迎えたディスクブレーキパッド
上の写真と同型の新品のブレーキパッド

リムブレーキ(ワイヤー式)の場合、このくらいブレーキパッドがすり減っていれば、ブレーキレバーのストロークもかなり大きくなるのでパッドの消耗に感覚で気が付くと思います。しかし、油圧ディスクブレーキの場合は、レバーのストローク量がパッドの摩耗の限界を迎えるまで変わらないので要注意です。普段の調整が要らないのが逆にいいところですが…。定期的に点検をして交換時期を判断しましょう。例えばアルテグラ(BR-R8070)のユーザーマニュアルだとパッドの厚みが1.5㎜になったら使用を中止して販売店へ、と書かれています。ショップでの点検はもちろんですが、日常的にご自身でも、ある程度は目視ででも点検できますので、必ず定期的にチェックをしましょう。

ちなみにこの写真のブレーキパッドを外した状態のブレーキキャリパーの状態は写真下です。かなりピストンが押し出されいますね。

すり減ったブレーキパッドを取り外すと、こんな感じにピストンがかなり押し出されています

専用の工具を使ってピストンをもとの位置に戻す作業をします。マイナスドライバーなど平らなものがあれば専用工具が無くても作業は可能ですが、その際はパッドを傷つけないように注意してください(私自身マイナスドライバーで作業をしてパッドを割ってしまった経験があります…)。もし新しいパッドに交換をする工程であれば、古いパッドを取り付けた状態で押し戻す作業で段取りをした方がいいでしょう。

ピストンプレスを使って押し出されたブレーキパッドを押し込んでピストンの位置をもとの状態に戻します
心配不要。するとちゃんとピストンは元の位置に戻ってくれます

そして、新しいパッドを取り付けて、センタリングの作業(フレーム台座への取付位置の調整)をすれば基本的にOKです。

特に異常がない限りは、パッド交換時にブリーディング(オイル交換やエア抜き)の作業はしなくても大丈夫です。逆にオイル交換をする時には、もしパッドが古いようなら、そのタイミングで一緒にパッド交換をすることをおすすめします。多くの場合パッド摩耗は左右均一ではないですし、表面が斜めにすり減っている場合も多いので、正しくセッティングするためには、新品のパッドを使用した方が理想的です。

ディスクブレーキパッド交換作業工賃…2,000円(税抜)

※ブレーキパッド代金は別途

※1か所あたりの料金です

※ブリーディング作業、台座のフェイシング作業が必要な場合は別途