新車価格100万円オーバーは当たり前⁉、200万円オーバーの「ロードレーサー」も見かけることが珍しくなくなった最近の各メーカーのラインナップですが、少しその要因を分析してみようかと思います。
まず前提としての定義ですが、「ロードバイク」の指す車種が自転車ロードレース競技用の自転車(ロードレーサー)と広く理解されいるように、競技用に速く走るために作られた自転車のジャンルでのお話しです。
近年、価格が著しく高価な商品になっている理由はこのこと(競技用機材だから)に由来します。今回はこの辺りの具体的な要因と現状のマーケットの状況を説明してみたいと思います。
※ロードバイク含め自転車全般は工業製品ですので「生産コスト上昇」や「いわゆる円安関連の事情」で影響を受けて値上がりしている理由ももちろんあります。前述の要因と合わさって拍車をかけてしまっている現状になってしまっています。
「ロードバイク」には初心者用の入門モデルからプロ選手も使う上級モデルまで様々な商品が各メーカーから販売されています。
ひと昔、10年くらい前の感覚だと、
- 入門モデル…10万円~20万円
- ミドルグレード…20万円~50万円
- ハイエンドモデル…50万円~70万円
このくらいの相場感でした。
当時であれば、これから「ロードバイク」を趣味として始めようとなった場合、車体+用品(ヘルメットやウエア、必要装備品など)で20万円以内で十分楽しめるスタートキットが揃いました。
ここで、一つ重要なポイントが「ロードバイク」を始めるといっても皆が本格的な競技を目指すわけではなく、多くの方は「週末のサイクリング」や「健康づくりのためのスポーツ」が目的だということです。こういったニーズの高まりが愛好者人口を大きく増やしてきました。
ところが一方で近年の「ロードバイク」は競技用として1分1秒でも速く走るために開発が進み、レース用に特化したした特殊な(結果、非常に高価な)パーツが採用されるのが当たり前になってきました。世界的に有名な自転車レース・ツールドフランスなどを見ても分かるように、昔に比べると物凄く高速化しています。
一般のユーザーが時速50㎞平均で長距離を走れる体力がある訳でもなくですが、結果、そのプロ仕様の「ロードバイク」を高額な値段で購入しなければならない乖離が残念ながら起きてしまっています。マーケット的にも購入金額のハードルが高くなりすぎて、新規ユーザーの減少を招いている一因になっています。
何でそんなに「ロードバイク」って高価なの?
「ロードバイク」がどうして「200万円」になってしまうのか、具体的に構成部品の価格帯の相場をみましょう。
乗り物系のスポーツで「速く」を目指したらお金を投資しなければならないのが世の常です。車体を構成している各部品すべてに価格が高くなる要素満載です。そこには目指すところが「速く」であれば納得できるきちんとした理由がありますから、価値を見出すことができれば、採用したくなります。趣味の世界の沼です。
①フレーム

「カーボン」素材化
クロモリ(スチール)やアルミが素材の中心だった時代に比べると大幅に価格UP
ハイエンドのワークスモデルだとフレームセットで70~100万円が相場。
②コンポーネント

具体例として、シマノのトップモデル「デュラエース」の2015年モデルと2025年モデルを比べてみました。



2015年/20万円⇒2025年/40~50万円、10年前に比べて倍以上。これには2つの大きな要因があります。※一覧表はいずれも標準的な仕様での合計額です
★「変速システム」が電動化されたこと
★「油圧ディスクブレーキ」が「ロードバイク」界隈の主流になったこと
どちらも製品コスト上、非常に高くなります。ロードレーサーは昔はシンプルな乗り物のイメージがありましたが、今日では電動システムや油圧システムを採用した複雑な乗り物に進化しています。

さらにはパワー計が標準装備のクランクセットも多く使われてきています。相場はデュラエースクランクセットで20万円程度。完成車に最初から装着のモデルも最近では珍しくありません。
③ホイール

完成車に標準で高級カーボンホイールが一般的になっています。昔はアルミの5~10万円のホイールが標準装備の製品が主流でしたが、近年のハイエンドモデル完成車には30~50万円クラスのカーボンホイールがデフォルトです。
④その他の構成部品


ハンドルバーやサドルもカーボンパーツがスタンダードな時代。サドルだけでも数万円する部品も珍しくありません。
⑤エアロ化
最後に個別の構成部品の価格の話しではありませんが、空気抵抗の軽減を極めた製品がトレンドであることがすべての背景にあります。目的が「速く走る」となると、今日ではエアロ効果の優位性がもっとも重視されています。F1や航空機などと同様に開発に膨大な費用がかかるジャンルです。

「ロードバイク」に昔の細くてすっきりしたイメージを持っている方からすると、こんなボリューム感のあるデザインのバイクには違和感を感じるかもしれません。現在の理論ではエアロな仕様が最も早く走れるとされています。尚かつ車重も軽量であることも求められますから、高価な素材であるカーボンを持ち要らざるを得ません。
これらを合計すると…
①フレーム…70万円
②コンポネント…50万円
③ホイール…30万円
④その他の構成部品…20万円
それぞれ、このくらいで想定しても170万円となります。
相場感として、完成車価格で軽く100万円オーバー、場合によっては200万円以上になる計算です。この価格帯は各メーカーのカタログの一番最初に載っているようなフラッグシップモデルに限った話ではありますが、ほんの少し前の時代に比べると想像できない値段ですね。
価格高騰はあくまでも「競技用機材」を極めた結果なので、当然のこととも言えますが、この状況は一般ユーザーの「ロードバイク」離れを招いていて、業界人の私個人としては正直あまり歓迎できません。
「速く」でなく「快適な」を目指したバイクも当然ありますし、最近ではシマノから「CUES」「ESSA」といった新カテゴリー(ライフスタイルという名称)コンポーネントも発売されていて、一般ユーザーが趣味としてスポーツサイクルを始めやすい商品群も拡充されてきています。これからは「競技向け」と「レクレーションスポーツ向け」に「ロードバイク」は二極化されていくのではないでしょうか。
※シマノライフスタイルコンポーネントwebサイト
昔から愛用している「ロードバイク」をレストア・オーバーホールしたいとのご相談も最近増えてきているように感じます。「ロードバイク」の新車価格が高騰していることの影響も一因でしょう。最近のロードバイクの進化についていけなくて…、そんなお客様からの嘆きもよくお伺いします。